パリ五輪が開幕した。イキイキと豊かに生きる為には、このようなスポーツを通して得られるものも大きいと考える。という事で、男子エペにて加納 虹輝選手が金メダルを獲得したフェンシングについて、今さらではあるが、まだまだ競技は続いていくという事もあり、ご紹介したい。なお、日付は現地時間となり、日本時間では時差の関係で深夜(翌日)の日付となる場合もある点は予めご了承いただきたい。
フェンシングの歴史
フェンシングはヨーロッパ中世の騎士道華やかなりし頃、「身を守る」「名誉を守る」ことを目的として磨かれ、発達してきた剣技。騎兵の登場や銃の導入により騎士たちの戦術は大きく変化する中で、スピードを身につけないと戦場で生き抜くことができなくなり、それが細身で先端の鋭く尖った刺突用の片手剣である「レイピア」(後のエペとフルーレの原点となる剣)の登場につながる。
その後、マスケットと呼ばれる剣火縄銃や銃火器の発達によって戦場での剣の有用性は薄れていくと、ヨーロッパの貴族は戦場で培った剣術を娯楽としてたしなむようになる。その繊細かつスピィーディなテクニックに魅せられる者が多く、1750年に金網のマスクが開発され、危険性が大幅に緩和されたことが引き金となり、ヨーロッパ各地で盛んに競技会が開催されていった。
戦争での実用性が低下した後にスポーツとして発展した点はアーチェリーとの共通点がある。また、騎士道という意味で言えば、武道の道を進んでいった弓道にも通ずる点も興味深い。この辺は下記ブログでも少し触れているので、興味があれば見ていただけたらと思う。
オリンピック競技としてのフェンシング
オリンピックでは、第1回近代オリンピック(1896年、アテネ)以来、今日に至るまで毎回正式種目となっている。第1回アテネ大会ではフルーレとサーブルが種目として採用され、第2回パリ大会ではエペも採用されて3種目が開催されるようになった。
第1回から現代にいたるまですべての大会で継続して行われているのは、陸上、競泳、体操、フェンシングの4競技しかない。ちなにみ、現代において色々なスポーツの開会式で行われる“選手宣誓”は1920年第7回アントワープ大会が起源であるが、 開催国ベルギーのフェンシング選手であるビクトル・ボワンによって、フェンシングのユニフォームを着て行われたという点もそのような歴史を考慮してのことかもしれない。
日本におけるフェンシングとオリンピック
フェンシングの前身が日本に伝えられたのは明治初年。1868年に陸軍戸山学校でフランス人教官が「片手軍刀術」として日本人に指導したのが始まりだと言われている。スポーツとしてのフェンシングが親しまれるようになったのは1932年。フランス留学中にフェンシングを習得した岩倉具清氏が、帰国後に慶応義塾大学・法政大学の学生らを中心に教えたことで、日本での競技としての文化が形成。
オリンピックへの初参加は1952年のヘルシンキ大会。オリンピックの成績は、1964年の東京大会で男子フルーレ団体が4位入賞したのが最高で、「オリンピックでメダル獲得を」が日本フェンシング界の悲願となっていた。
近年、2007年世界選手権大会で女子フルーレ団体が世界選手権での日本初のメダル(銅メダル)を獲得するなど、国際大会で上位の成績を収めるレベルに至り、2008年北京オリンピック男子フルーレ個人で太田雄貴選手が銀メダルを獲得し、ついに日本フェンシング界初のオリンピックメダリストが誕生。2010年世界選手権大会では男子フルーレ団体が銅メダルを獲得、前回の東京オリンピックでは男子エぺ団体が金メダルを獲得するに至る。
フェンシングのルールまとめ&パリ五輪における日本人選手紹介
フェンシングは2人の選手が1対1で向かい合い、片手に持った剣で互いの有効面を突く競技。相手の間合いを読んで急所を突くとポイントになるため、剣の扱いに長けていることはもちろん、「戦術的で高度な駆け引き」や「攻撃をかわす巧みなフットワーク」が要求される。フェンシングは「エペ」「フルーレ」「サーブル」の3種目に分かれており、それぞれでルールが異なる事から、その違いを簡単にまとめてみた。また、パリ五輪における競技日程と選手一覧も作成しているので参考にしてほしい。
種目 | エぺ | フルーレ | サーブル |
攻撃 | 突き | 突き | 突き+斬り |
有効面 | 全身 | 胴体 | 上半身 |
優先権 | 無 | 有 | 有 |
同時攻撃時のポイント | 双方 | 優先権保持者のみ | 優先権保持者のみ |
種目 | 参加選手名 | 競技日 |
男子サーブル個人 | 吉田 健人 | 7月27日 |
女子エぺ個人 | 吉村 美穂 | 7月27日 |
男子エぺ個人 | 加納 虹輝 見延 和靖 山田 優 | 7月28日 |
女子フルーレ個人 | 東 晟良 上野 優佳 宮脇 花綸 | 7月28日 |
男子フルーレ個人 | 松山 恭助 飯村 一輝 敷根 崇裕 | 7月29日 |
女子サーブル個人 | 江村 美咲 高嶋 理紗 福島 史帆実 | 7月29日 |
女子エぺ団体 | – | 7月30日 |
男子サーブル団体 | – | 7月31日 |
女子フルーレ団体 | 日本 | 8月1日 |
男子エぺ団体 | 日本 | 8月2日 |
女子サーブル団体 | 8月3日 | |
男子フルーレ団体 | – | 8月4日 |
フェンシングのルール(エぺ)
「エペ」は全身すべてが有効面であることが特徴。先に突いた選手にポイントが入り、両者同時に突いた場合は双方のポイントとなる。フェンシングの3種目の中でも、「先に突けば勝ち、突かれたら負け」というもっともルールがシンプルで分かりやすい点がエペの魅力。「キング オブ フェンシング」とも呼ばれており、フェンシングの王道の種目はエペだとも言われている。
単純にポイントを獲得した選手のランプが点灯するので、フェンシング観戦が初めての方でも分かりやすく楽しみやい。フェンシングは中世ヨーロッパの騎士たちによる「決闘」から派生したスポーツであり、「エペ」はその決闘の形にもっとも近いと言われている。
フェンシングのルール(フルーレ)
「フルーレ」は「優先権」を保有するターンだけポイントが入る種目。また、全身が攻撃対象であるエペとは異なり、胴体のみが有効面となる。フルーレでは先に攻撃を仕掛けた選手に優先権が生じる為、双方が有効面を同時に突いた場合は、優先権のある選手だけにポイントが付与される。
優先権のない防御側の選手は、剣をはらう・叩くなどして剣先を逸らし、間合いを切って逃げて攻撃を阻止できると「優先権」を獲得できる。華麗な剣さばきが魅力で、フルーレの語源がフランス語の花であることも戦い方の優美さを物語っている。
フェンシングのルール(サーブル)
エペとフルーレが「突き」の攻撃一辺倒であるのに対して、「斬り(カット)」と「突き」の2種類の攻撃パターンがある種目が「サーブル」。フルーレとは異なり、両腕と頭部を含む上半身が有効面であり、ダイナミックな斬りの攻撃が見られるところが醍醐味。斬りにかかるスピード感と一瞬の判断による身のこなしなど、スピードを楽しむ種目である。
騎馬民族の戦いが発祥のサーブルは、乗っている馬を傷つけないように上半身だけを攻撃するルールになったとされている。ルールはフルーレと同様、「優先権」に基づき攻守交替がなされるので、2種類の攻撃パターンによる攻防戦が見物である。
まとめ
以上、フェンシングについての紹介を行ってきた。日本の競技人口は約6,000人と他のスポーツに比べて多い部類に入るわけでは無いが、2000年代以降は世界の大舞台などで日本勢がメダルを獲得するケースが増加。パリ五輪でもスノーピークの事前予想で、女子サーブル個人の江村選手が金メダル予想、男子エぺ団体が銅メダル予想となっており、大いに期待が持てる種目である。
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