パリオリンピックが閉幕した。イキイキと豊かに生きる為には、スポーツを通して得られるものも大きいという考えのもと、大会期間中は今まで触れてこなかった競技に注目してきたが、日本選手の目覚ましい活躍を見て大きな感動をいただいた。
前回の記事では“団体競技”に注目し、残念ながら日本のメダル獲得はできなかったが、日本を破った相手が見事メダルを獲得した競技にフォーカスし、イキイキと生きるヒントを探ってきたが、今回は3回に分けて“個人競技”にフォーカスを当てたいと思う。なお、陸上や水泳のように、複数名で競う競技については除外し、対人戦を基本にする競技を取り上げている。
注目した競技
競技名 | 選手名 | 最終順位 | 勝った選手 | 勝った選手の順位 |
柔道 (女子52キロ級) | 安部 詩 | ベスト16 | ディヨラ・ケルディヨロワ | 金メダル |
柔道 (男子100キロ級) | ウルフ アロン | ベスト8 | イリア・スラマニゼ | 銀メダル |
柔道 (男子100キロ超級) | 斉藤 立 | ベスト4 | 金 民宗 | 銀メダル |
卓球 (男子シングルス) | 張本 智和 | ベスト8 | 樊 振東 | 金メダル |
卓球 (混合ダブルス) | 早田 ひな/ 張本 智和 | ベスト16 | キム グムヨン/リ ジョンシク | 銀メダル |
柔道(女子・男子)
柔道競技のパリ五輪は様々ドラマがあったが、競技別の金メダル獲得数では日本がトップ。一方で、まさかの敗戦を期した安部詩選手のように、メダル獲得を期待されていながらも、結果が伴わなかった選手もいた。ただ、日本選手に勝った相手選手にもドラマがあり、ここを探っていこうと思う。
ディヨラ・ケルディヨロワ(女子52キロ級)
メディアも含めて期待値が高かった安部詩選手。本人も金メダル獲得だけを信じてトレーニングを行っていた中で、今回の結果を受け入れ難いものだと思う。しかし、安部詩選手に勝ったディヨラ・ケルディヨロワ選手は、世界ランキング1位の強豪。本大会でも金メダルを獲得した。
なお、安部詩選手が1回戦から強豪と対戦する事になった理由は、世界ランキング8位以内に与えられるシード権を獲得できなかった為だと言われている。早々に日本代表に内定されたが故に、国際大会に無理して出場する必要は無く、世界ランキングを上げられなかった。いずれにしても、“勝負に絶対は無い”という事実を改めて認識させられた試合であった。
ディヨラ・ケルディヨロワ選手は、ウズベキスタンの女子柔道で初のメダリストであり、男女を通じて柔道競技初の金メダリスト。歴史に名を遺した。一方で、前回の東京オリンピックでは、初戦でモンゴルのルハグバスレン・ソソルバラムに敗れており、初戦の入り方の重要性を身をもって知っていたのかもしれない。
イリア・スラマニゼ(男子100キロ級)
実は面白キャラが発覚したウルフ・アロン選手。東京五輪に引き続き連覇を目指したが、ベスト8で敗戦となった。ウルフ・アロン選手に勝ったジョージア出身のイリア・スラマニゼはIJF世界ランキング1位の強者。決勝戦でも技ありを取っていたが、試合時間残り8秒で指導。指導3枚により1本負けという後味の悪い試合となった。
金 民宗(男子100キロ超級)
父親はオリンピックの95kg超級で五輪2連覇を達成した斉藤仁。ベスト4で今大会で銀メダルを獲得した韓国の金民宗選手に敗れた。なお、金民宗選手は2024年世界柔道選手権大会で金メダルを獲得しており、近年、国際大会で結果を残すほど急成長を遂げている選手であった。
卓球(男子シングルス・混合ダブルス)
卓球5種目すべてを卓球王国である中国が獲得。日本は悲願の金メダルには至らなかったが、2つのメダルを獲得。全ての国が打倒中国を掲げて戦いに挑んでいるが、そこにあるドラマを探っていく。
樊 振東(男子シングルス)
張本智和選手は言わずとも知れた日本男子卓球界のエース。残念ながら、ベスト8で金メダルを獲得した絶対王者の樊振東選手にフルセットの上で惜敗(3対4)。樊選手はその後の準決勝でストレート勝ち、決勝でも圧勝(4対1)している事から、本大会で最も樊選手を追い詰めたのが張本選手である。
樊選手は現在27歳ではあるが、今回が最後の五輪の可能性がある。張本選手もインタビューで話していたが、最後の2ゲーム、7対7という状況から樊選手は1点も落とさずにセットポイントを獲得。絶対王者の勝利への執念と強さを感じた試合であった。
キム グムヨン/リ ジョンシク(混合ダブルス)
スノーピークの事前予想でも銀メダル獲得を予想されていた卓球混合ダブルス。まさかの1回戦敗退。勝った相手は北朝鮮のリ ジョンシク選手とキム グムヨン選手である。北朝鮮選手は決勝まで進み、銀メダルを獲得した。北朝鮮選手は今年に入り中国で練習を積み、実力を伸ばしていたとのこと。決勝戦でも中国選手と渡り合えており、決して実力が無いペアでは無かった。
その他、表彰式にて銅メダルの韓国ペアも含めた6名での自撮りが話題となっている。五輪憲章にて、「オリンピック競技大会は、個人種目もしくは団体種目での競技者間の競争であり、国家間の競争ではない。」とあるが、オリンピック精神を示した場面だったと思う。
まとめ
パリオリンピックにおいて、今回は柔道と卓球の個人戦にフォーカスを当て、日本を破った相手選手がメダルを獲得した種目に注目して考察してみた。“お家芸”という言葉があるが、柔道における日本・フランス、卓球における中国は競技に対する国民の思いを背負ってプレーしていると思う。しかし、選手個人はそんなプレッシャーに負けず、ただひた向きに情熱を持ってプレーをしている事を認識させてくれた。
柔道で安部詩選手に勝ったディヨラ・ケルディヨロワ選手の柔道家らしい立ち居振る舞いが賞賛された。しかし、世界トッププレイヤーのプレッシャー、前回大会で初戦負けを喫してしまった悔しさ、それらを知っているが故の振る舞いであると考えると、より美しく輝いて見える。
卓球でも張本選手に勝利した樊選手の王者としてのプライド、勝ちへの執念は凄かった。また、絶対王者の中国に胸を借りながらも、決勝まで進め、堂々と戦った混合ダブルスの北朝鮮ペアの覚悟、そして、試合が終わった後のオリンピック精神。勝つ事が全てでは無いかもしれないが、勝者にしか立てない境地がある事も気づかせてくれた。
こういった背景を知る事で、得られるものがより豊かで鮮やかなものになった。今回、日本選手はメダルに手が届かなかったが、これを糧にして次なる舞台で飛躍してもらえればと思う。
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