無念の途中棄権…。バドミントン女子シングルスの表彰式での振る舞いに秘められた想いとは。日本選手を越えていった強者を追って分かったこと【パリ五輪】

コラム

 パリオリンピックが閉幕した。イキイキと豊かに生きる為には、スポーツを通して得られるものも大きいという考えのもと、大会期間中は今まで触れてこなかった競技に注目してきたが、日本選手の目覚ましい活躍を見て大きな感動をいただいた。

 前々回の記事では“団体競技”に注目し、残念ながら日本のメダル獲得はできなかったが、日本を破った相手が見事メダルを獲得した競技にフォーカスし、イキイキと生きるヒントを探ってきたが、今回は3回に分けて“個人競技”にフォーカスを当てたいと思う。なお、陸上や水泳のように、複数名で競う競技については除外し、対人戦を基本にする競技を取り上げている。

注目した競技

競技名選手名最終順位勝った選手勝った選手の順位
バドミントン
(男子シングルス)
西本 拳太ベスト16クンラブット・ビチットサーン銀メダル
バドミントン
(女子シングルス)
大堀 彩ベスト8カロリナ・マリン棄権
バドミントン
(女子シングルス)
山口 茜ベスト8 洗塋金メダル
レスリング
(男子グレコローマンスタイル67キロ級)
曽我部 京太郎ベスト16ルイスアルベルト・オルタサンチェス銅メダル
レスリング
(男子フリースタイル86キロ級)
石黒 隼士ベスト8アーロンマーケル・ブルックス銅メダル

バドミントン(男子・女子)

 パリオリンピックでは、混合ダブルスと女子ダブルスで銅メダルを獲得した日本代表。シングルスではメダル獲得に至らなかったが、高いレベルでの試合が行われており、決して弱いから負けたという話では無い事が分かる。

クンラブット・ビチットサーン(男子シングルス)

 決勝トーナメント1回戦で西本拳太選手を破ったのは、本大会で銀メダルを獲得したタイのクンラウット ウィチドサルン選手である。クンラウット ウィチドサルン選手は現在23歳。世界ジュニア選手権男子シングルスで史上初の3連覇を達成するなど、若い頃から活躍する新進気鋭のバドミントン選手。

 アジア勢が強いとされるバドミントンにおいて、ヨーロッパで強さを誇るデンマークのビクトル・アクセルセンに敗れはしたものの、決勝までは圧倒的な強さで勝ち上がっていった。また、タイのバドミントン史上初の五輪でのメダル獲得である。

 なお、今回金メダルを獲得したデンマークのビクトル・アクセルセンは東京五輪に続く連覇を果たした絶対王者。30歳という年齢もあり、次のオリンピックではクンラウット ウィチドサルン選手のような若い世代が躍進しているかもしれない。

カロリナ・マリン(女子シングルス)

 ベスト8で大堀彩選手を破ったのは、スペインのカロリナ・マリン選手だ。カロリナ・マリン選手は次のベスト8でリードを奪いつつも膝を負傷し棄権。メダル獲得には至らなかったものの、表彰式で対戦相手の中国選手が表彰式でスペインの国旗があしらわれたバッジを持ち、カロリナ・マリン選手を称えたのは感動を持って伝えられた。

 しかし、この行動に至った背景を深堀してみたい。カロリナ・マリン選手は2016年のリオ五輪の金メダリストである。しかし、順風満帆な競技人生の中、2019年のとある大会決勝、今回と同様に左の前十字靱帯と半月板を損傷。この怪我の影響もあり、東京五輪を欠場した。

 現在31歳のカロリナ・マリン選手はおそらくこのパリ五輪を競技人生の集大成として、並々ならぬ想いでかけていたはずだ。そんな大一番、かつ、調子が良い中での無念の棄権である。このような背景を考えると、“表彰式での美談”はあくまでも表面的な部分でしかないように思う。中国人選手は同じ競技者として、近くでリスペクトしていた選手がこのような形で終えてしまう事に対して、もっと深い何とも言えない感情があり、あのような行動に至ったのではないかと思ってしまう。いずれにしても、深刻な怪我ではなく、今回の無念を果たしていただければと願う。

安 洗塋(女子シングルス)

 ベスト8で日本のエースである山口茜選手を破った相手は、今大会で金メダルを獲得した韓国の安洗塋選手である。安洗塋選手は現在22歳。2023年の世界選手権で韓国女子初の優勝を果たした最強王者である。一方で、大韓バドミントン協会に対する管理体制に対して批判するコメントを発し、物議を醸している。

レスリング(男子)

 今回、競技別の金メダル獲得数でダントツの世界1位という結果を出したレスリング。日本のお家芸とも言われるが、そんな日本の強者を越えていった海外選手を調べてみた。

ルイスアルベルト・オルタサンチェス(男子グレコローマンスタイル67キロ級)

 1回戦敗退となったが、曽我部京太郎選手に勝ったのは本大会で銅メダルを獲得したキューバのルイスアルベルト・オルタサンチェス選手である。ルイスアルベルト・オルタサンチェス選手は東京五輪で一つ階級が下の60キロ級で金メダルを獲得。今回のパリ五輪で金メダルを獲得した文田選手を破っての事だった。2階級制覇を狙った今大会でも銅メダルを獲得した強者であった。

アーロンマーケル・ブルックス(男子フリースタイル86キロ級)

 今回、石黒隼士選手を2回戦で下したのは、今大会で銅メダルを獲得したアメリカのアーロンマーケル・ブルックス選手である。2023年のU23世界王者で2024年3月には全米大学(NCAA)選手権4度優勝を達成したニューフェイスである。もともと同階級では、前回の東京五輪で金メダルを獲得し、過去3度の世界選手権で優勝を果たしたデビッド・テイラーが君臨していたが、アメリカの代表選考会で番狂わせを起こし、代表を勝ち取った選手である。まだ24歳と若いこともあり、今後もこの階級の高い壁として君臨していくことが予想される。

まとめ

 バドミントンとレスリング競技において、日本人選手を破ってメダル獲得まで至った相手選手を追いかけてみた。見えてきたのは“世代交代・新勢力の台頭”である。しかし、新勢力である選手には競技を牽引してきた先人に対するリスペクトを感じるところが美しい。

 バドミントン女子では、怪我で途中棄権となったものの、カロリナ・マリン選手に対する中国の何氷嬌選手からのエールは、当事者しか分かり得ない感情があったものと思うし、カロリナ・マリン選手の絶望的な感情が少し和らいだのではないかと思う。

 レスリング男子フリースタイル86キロ級でもアーロンマーケル・ブルックス選手が同じアメリカの絶対王者を下して代表権を獲得。今後のレスリング界を引っ張っていく存在になり得ると感じる。

 このようなベテランの意地と若手の台頭がぶつかり合い、そこに至るまでの背景、その結果、誰が覇権を取っていくのかという点にも注目していくと、スポーツを観る新たな楽しみが出てくる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました